Julius Kranefuss

Julius Kranefuss

建築家

2016/04/26

クロイツベルク&ノイケルン

ユリウス・クレーンファスは仕事とプライベートに同じだけの情熱を注いでいます。経営する建築事務所ZWEIDREIのプロジェクトに関わっているときも、恵まれない青少年のために寄付を集めるときも、エネルギーに満ち溢れたアーティストと会っているときも、手を抜くことはありません。ベルリンにあるオフィスにお邪魔して、現在関わっているプロジェクトと、USMの家具に出会った経緯を伺いました。

建築事務所ZWEIDREIでは、『メディア・アーキテクチャー』を製作していますね。これはどのようなものですか?

『メディア・アーキテクチャー』は、もともと建築の古典的概念を広げる言葉とされていた。コミュニティーをどう運営していくべきか、ひとびとが真剣に考えていた1970年代、この概念が世間に広まっていったんだ。建築を通じて、どうすれば都会的なアイデンティティをもった社会空間を創りだすことができるのか、ひとびとは考えた。でもそれは、建築そのものをどうこうするという議論ではなくて、建築をもっと広く柔軟に解釈するということだった。

はじめて『メディア・アーキテクチャー』が注目されたのは、建築がテクノロジーと結びついたときだった。実際この概念はすぐに陳腐なものになってしまって、ライトアップされたファサードとLEDの設計が関わるときだけ、語られる概念になってしまった。けれど、これはテクノロジーを組み込んだ建築を説明するための概念であることには変わりない。

“「本当にすばらしい発明だと思う!」 「僕らが目指しているのは、人間がまわりの環境をどのように使い、どう反応するのかを見極めること。」”

なぜ、『メディア・アーキテクチャー』という言葉がZWEIDREIに定着したのでしょうか?

大学卒業が決まったばかりのころ、僕らはアーティストと組んでインスタレーションを製作して、音響と視覚効果を使った実験を繰り返していたんだ。だから『メディア・アーキテクチャー』という言葉が、僕らにぴったりくると考えていた。だけど、最近になって、僕らはあくまで建築を造りたいんだと思うようになった。それで今は社名を「ZWEIDREI Architekten」にしているんだ。『メディア・アーキテクチャー』という言葉を入れずにね。

プロジェクトは、じつにバラエティーに富んでいますね。建築だけではなく、イスやテーブルまで手がけられていますよね。
ZWEIDREIではいつも、空間とは何かということを理解しようと努めているんだ。例えば、どこまでが建築なのか?とか。つまり空間デザインの守備範囲はどこまでかってこと。日常生活の中で必要とするものは、空間を構成する要素の一つ。ということはイスやテーブルも建築の一部ということになる。そもそもプロダクトデザイナーという言葉が存在するのは、誰かが、「プロダクトデザインと建築を分けなければならない」って言ったからに過ぎないんだ。家具だって、結局は空間の利用に関わるのにね。有名なプロダクトデザイナーが共通して言っているのは、家具の開発はきわめて建築的な仕事だということ。人間がまわりの環境をどのように使い、どう反応するのかを見極めることが大切だからね。

プロジェクトは、じつにバラエティーに富んでいますね。建築だけではなく、イスやテーブルまで手がけられていますよね。

ZWEIDREIではいつも、空間とは何かということを理解しようと努めているんだ。例えば、どこまでが建築なのか?とか。つまり空間デザインの守備範囲はどこまでかってこと。日常生活の中で必要とするものは、空間を構成する要素の一つ。ということはイスやテーブルも建築の一部ということになる。そもそもプロダクトデザイナーという言葉が存在するのは、誰かが、「プロダクトデザインと建築を分けなければならない」って言ったからに過ぎないんだ。家具だって、結局は空間の利用に関わるのにね。有名なプロダクトデザイナーが共通して言っているのは、家具の開発はきわめて建築的な仕事だということ。人間がまわりの環境をどのように使い、どう反応するのかを見極めることが大切だからね。

あなたはプロダクトデザイナー兼、建築家なのでしょうか?

違います。僕らより、ずっとうまくプロダクトをデザインできる人間はたくさんいる。もし何かデザインするチャンスがあったら、いろんなことを試せて楽しいけどね。僕らのデザインが実際、本当にいいものなのかどうか、いつも考えるようにしている。そうすることでしか、学べないから。イスやテーブルを作る仕事は-建築に関わるすべてのプロジェクトもそうだけど-、一人の人間だけでなしうるものではないんだ。この部分は、とても大切なことだと思う。建築家一人を特別視する個人崇拝は公平じゃない。このテーブルは僕の作品だ、という言い方は正しくないと思うんだ。このテーブルだけで8人の人間が関わっていて、この事務所が存在しなかったら、そもそもこれを作ることは出来ていないんだからね。僕にとって大事なことは、関わるすべての人がクレジットされること。それが一番いいことだしね。

あなたたちがデザインした家具の隣に、いくつかUSMの家具が並んでいますね。

それについては、ちょっとラッキーな話が背景にあるんだ。このオフィスに入ることになって、鍵を初めて受け取った日、僕は弟といっしょに、前に借りていたオフィスに車で行ったんだ。片付けがあったからね。到着すると、中庭に家具がずらっと並んでいた。同じ建物に入っていたスタジオが移転することになっていたんだ。そこのオーナーが、ほしい家具あるか?って僕らに聞いてきた。彼はどれも愛着があるけど、もう手元に残せないって言うんだ。どれもすごく質のいいものばかりでね。しかも、ちょうど僕らは空っぽのトラックで来ていた。荷物を積み出したら、小さいUSMのテーブルを見つけたんだ。「すごい!」って思った。スタジオの中も見ていいって言うから行ったら、そこにUSMのサイドボードもテーブルもあった。

それでみんな持って行っていいということになったのですか?

そう!最初は、もらっていいものかどうか迷ったよ。だけどオーナーは、自分が大事にしていた家具に新しい居場所があるなら、こんなにうれしいことはないって言ってくれたから、素直にもらったんだ。

そのスタジオも建築事務所でしたか?

違います。USMは確かに建築事務所で良く見かけるけど、機能性に優れているから、どんな場所にでも合うんだ。短時間で簡単に組み立てられるし、必要な場所にぴったりはまってくれる。本当にすばらしい発明だと思う。

将来的に、もっとUSMの家具を増やしていきたいと思いますか?

絶対そうしたい。頑丈で長く使えるし、オフィス家具でUSMはすでに、定番というステータスがあるからね。だけど、プライベートな空間でも使えるんだ。特にサイドボード。時代に左右されないし、いろんな場面で使える。この点が、僕がUSMの家具を一番気に入っている理由だよ。

アートへの気持ちも熱いですね。その情熱はどこからきているのですか?

美術ということで言えば、僕はもともと美術に関心の高い両親のもとで育ったんだ。考古学の発掘品を見に、家族でよく博物館に行った。これがいやでね。親を恨んだよ。休暇になると、車で遠出するんだ。イタリア、スペイン、フランスと何百キロも走る。それだけでも十分くたくたなのに、さらにそこに滞在して、いろいろ観て回るわけさ。幼い僕は、当然そんなことばかばかしいと思っていた。でも振り返ってみると、そうした中で、ほんと信じられないほどたくさんのことを吸収していたんだ。

建築をしっかり学ぼうと意識しだしたのはいつですか?

昔、高速を走って、フランク・ゲーリーが設計したビルバオ・グッゲンハイム美術館を観にいったことがある。行ったときは、ちょうどこの美術館が開館したばかりだった。フランク・ゲーリーは、僕のヒーロー的な建築家だったから、最高の瞬間を味わった。この体験で建築研究に一歩近づくことになった。少なくとも、芸術と建築をリアルに感じ出したことは確かだね。

最近、若い人たち向けの美術オークションを手がけるRound Table 5と仕事をしていますね。社会的な取り組みへの意識も、家庭環境で培ったものですか?

僕はとてもリベラルな教育を受けた。うちはけっこう大家族で、従兄弟も叔父も叔母もたくさんいる。そんな中で育つと、何よりも大切なことは他者に思いやりをもつことだって、学ぶよね。家族は僕にとっていつも大事な存在で、人生をポジティブに見る姿勢を教えてくれた。この世界で、僕らはひとりじゃない。

この信念は僕の建築に内在するテーマだし、サスティナビリティと同じような要因かな。僕はリサイクルとか、原子力エネルギーの終わりといった環境政策をいつも身近に感じながら、大人になってきた。そうやって育つと、社会的な取り組みというのはあたりまえのこと。やるならちゃんとやりたい。他者の存在を大事にするというのも、その一環。僕自身、お金をたくさん持っているわけではないけれど、それでも分け合うことはできる。僕にとってお金はあまり問題じゃないんだ。まったくビジネスには向いてないんだな、僕は。

最後に。いまだ実現していない、夢のプロジェクトを教えてください。

そのリストなら数え切れないくらい長いよ。でも、自分の人生でやれることをすべて詳細にリストアップしていくのはやめたんだ。毎日僕らがやっていることが、僕らが大事にしていること。とてもシンプルな話。僕らが死ぬまでにできることも、数え切れない。

それに僕は自分に対して厳しいところがあって、すべてのプロジェクトは、前のプロジェクトに対して、もっとうまくできたんじゃないかという問いの延長にあるものなんだ。誰だって同じ経験を二度は出来ない。二度目には同じ感動を味わえない本のようにね。発展していくことは、知識を増やしていくことの一部だと思う。失敗を恐れてはいけないんだ。

オフィスと仕事についてお話を聞かせてくれてありがとうございます。

「Freunde von Freunden」では、ユリウスの事務所のあるクロイツベルク周辺と彼のマイホームについてさらに詳しく知ることができます。手作り感あふれるプライベート空間は、普段のデジタルな仕事空間とは見事に対照的です。

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